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VARIOUS - Precioue World / CD レビュー

2018/01/08

東京・乃木坂にCACTUSという大好きなクラブがある。レゲエ好きのいい笑顔で溢れる最高の場だ。ここを訪ねるとまず“ある人”を探す。その人は、バーカウンターの中で煙草をくゆらせていたり、混雑するフロアで必死にグラスを片付けていたり、DJブースの中でレコードをかけていたり、MCをしていたりする。声をかけると、「いらっしゃい!」とか「元気?」とか、あの素敵なハスキー声でケタケタ笑いながら優しく迎えてくれて、「やっぱりココはいいなぁ」なんてホクホクする。  その人とは、CACTUSのオーナーであり、セレクター/MC、プロデューサーのMOOFIRE。本作のトータル・プロデューサーだ。レゲエと出会って約20年。2001年からはサウンドHEMO+MOOFIREとして始動、日本~ジャマイカ~トリニダード・トバゴを往来しながら、その抜群のフットワークと千里眼で、新しい東京発ダンスホール・シーンを築き上げ、活気付け、牽引してきた。  そうした確かなキャリアを持つMOOFIREが、遂にソロとして本格始動する。解散の話は以前から決まっていたようだが、こうして自身のレーベルを立ち上げ、初のプロデュース・アルバムをリリースすることは、彼女にとって「独りで歩んでいく」という大きな意思表示とも言えるだろう。 「ここ数年、自分が本当にやりたいことっていうのを探求してきた。昔は、“海外でかけられる日本の曲”に重点を置いて世界進出を狙っていたわけ(笑)。だけど3.11以降、原発が爆発してから自分が日本にいる意味を考えたし、日本のレゲエ・シーンも成熟しているし、だったら国産にこだわって、できる限り日本を表現した作品を作ってみようと。それが今回のコンセプトであり、私にとっては新たな挑戦」 昔から「一番好きなテレビ番組は国会中継(笑)」で、昨今は、脱原発グループ“エネチェン大作戦!”のメンバーとして精力的な活動を続ける彼女ゆえに、「レゲエは反体制の音楽。ずっとそういうメッセージを持ってプレイしてきたけど、本気を出して言わなきゃいけない時代が来てしまった」という思いは、本作にもしっかり投影されている。「反原発運動がどうやったら注目を浴びるか? やっぱり女子でしょ!」ということからダンサーが集結、RANKIN TAXIとHGP Girls(HGP=反原発)がコラボした <誰にも見えない匂いもない2012 >、「官邸前デモで戦っている人への応援歌」だというRAGGA-G など、メッセージ・ソングを収録。MOOFIRE自ら作詞・曲に名を連ねたRio では、リリックの文頭を縦に読むと“げんぱつはんたあい”となる言葉遊びも!  「超仲良しな反原発仲間(笑)」というHIBIKILLAはトラックも自身で制作した。「こういう音でノレて踊れないと! リディムそのものがメッセージ」というヘヴィなルーツ・チューンを収録。彼同様、シーンの中堅として活躍する精鋭、AKANE、FOOや、激戦区・渋谷で切磋琢磨するHANZO & SKETCH 、本作のPV映像も手がけた多才BADMAN DOLLARなど若手まで、現場重視のMOOFIREから見たレゲエ・シーンの“今”を体感できるのも魅力。「レゲエじゃないけど、レゲエ好きにハマるツボが絶対あるはず」という言葉が大いに頷ける、TACK <ピースってマスカ?>など変化球路線も、MOOFIREならではのユニークな視点が冴えている。 レーベル名の由来は、「この素晴らしき世界(Precious World)に贈る音楽を作りたい」という思いから。頭文字の“PWR”は“Power”の意。ほかにも“P”が付く言葉は“Peace”“Positive”“People”“Pretty”など、いい意味の言葉が多いこと、それらが“W”(2倍)になってほしいという願いも込められているようだ。 「金持ちが作ったシステムに踊らされてるってことにみんなちゃんと気づいて、本当に大事なものが何なのか考えてみてほしい。親兄弟に感謝、大事な仲間がいて楽しい遊び場があって感謝。それが本当の“Precious World”なんじゃないかな」 歯に衣着せぬ痛快な物言い、頼れる姉御的な懐の深さ。生きることに真剣で真摯なMOOFIREの“熱”が詰まった記念すべき第1作目。FIRE! FIRE! 2013年6月 文/岡部徳枝

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